Micro-ISV: ビジョンから現実へ
From The Joel on Software Translation Project
Joel Spolsky / 青木靖 訳
2006年1月11日 水曜
これはボブ・ウォルシュの新刊「Micro-ISV: ビジョンから現実へ」(Micro-ISV: From Vision to Reality)に寄せた私の序文だ。
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どうして私がMicroISV運動のシンボルみたいになってしまったのだろう?
こともあろうに私が。ええ?
私がFog Creek Softwareを始めたとき、それを小さな(micro)ものにしようなんてちっとも思っていなかった。計画では120カ国にオフィスを持つ大きな多国籍ソフトウェア企業を作り、マンハッタンの摩天楼にある本社には屋上にヘリポートをつけてハンプトンまですぐに飛んで行けるようにするつもりだったのだ。そうなるまでには何十年かかかるかもしれないが——私たちは自力でやっているし、常にゆっくりと注意深く成長するように心がけている——しかし私たちの夢は小さなものなんかでは決してなかった。
それにMicroISVという用語も気に入らない。ISVの部分はIndependent Software Vendorの略だ。これはMicrosoftが作った言葉で、「Microsoft以外のソフトウェア会社」を意味している。もうすこし具体的に言うとこういうことだ。「何らかの理由で我々がまだ潰しも買収もしていないソフトウェア会社で、たぶんウェディングテーブルの配置みたいな、なにかチャーミングで気取ったビジネスをしていて、その古式ゆかしさがあまりにクールなために踏みつぶしかねているわけだが、ちっぽけな諸君は存分に楽しむといい。ただ.NETを使うのを忘れずに!」
これはもうひとつの用語である「レガシー」と同様、MicrosoftがMicrosoftのものでないソフトウェアを指すときに使っている。そして彼らがGoogleのことを「レガシーサーチエンジン」と言うときには、彼らはGoogleが単なる「古くてガタのきたサーチエンジンで、歴史的な偶然のためにみんないまだに使っているが、やがて避けようのないMSNの力に屈して乗り換えることになる」のだと仄めかそうとしている。ああ、何とでも!
私は「ソフトウェア会社」という言葉の方が好きだし、新興企業であることに何も悪いことはないのだから、新興ソフトウェア会社と呼べばいいわけで、別にMicrosoftと関係づける必要は全然ない。
あなたがこの本を読んでいるのは、小さなソフトウェア会社を始めたいからだと思うが、その目的で読むにはこの本はとてもいい本だ。この場を借りて、あなたがMicro...もとい、新興ソフトウェア会社を立ち上げる前にやっておかなければならないことのチェックリストを示そうと思う。このほかにもやらなきゃならないことはあるが、それについてはボブが本の中で詳しく書いている。これは私の分だ。
その1。 解くのはどんな問題で、それは誰のためであり、その製品によって問題が解決できるのはなぜで、そして顧客はその解決に対してどのような仕方で支払うのか説明できないのなら、会社を始めないこと。以前私は6社のハイテク新興企業のプレゼンテーションを聞きに行ったことがあるが、そのうちのどれ1つとして、どんな問題を解決しようとしているか明快なアイデアを持ってはいなかった。友達とコーヒーを飲みに行く時間を設定する手段を提供しようとする新興企業や、オンラインでの行動履歴を削除できるようにするのと引き替えにあらゆる行動を追跡するブラウザプラグインをインストールしようとする新興企業や、特定の場所にテキストメッセージを残せるようにしようとする新興企業がいた(友達が同じバーに立ち寄ったら、あなたの残したメッセージを見られるというわけだ)。それらに共通していたのは、そのどれも問題を解決しておらず、彼らは揺り椅子でいっぱいの部屋にいるしっぽの長い猫と同じくらいまずい状況にいたのだ。
その2。1人でビジネスを始めないこと。成功している1人で始めた新興企業がたくさんあるのは知っているが、それ以上にたくさんの失敗した1人による新興企業がある。あなたのアイデアに利点があると1人の友達に納得させることもできないのだとしたら、なんて言うか、そのアイデアにはそもそも利点がないんじゃない? それを別にしても、1人でやるというのは孤独で気が沈むものであり、アイデアを交換できる相手もいない。そして困難に直面したら、必ず直面することになるのだが、1人でやっていたら単に会社を畳むことになるだろう。2人いれば、パートナーに対して責任を感じて、乗り切ろうとするだろう。P.S. 猫は勘定に入らないよ。
その3。最初はあまり多くを期待しないこと。製品を売り出したとき、最初の月にどれくらいお金が入るか誰にも分らない。5年前、私たちがFogBugzを売り出したとき、最初の月の売り上げが0ドルになるのか50,000ドルになるのか見当もつかなかった。私にはどっちの数字もありそうに思えた。私はこれまでに多くの起業家たちと話をし、今では十分なデータが集まったので、あなたの新興企業でそれがいくらになるのか教えてあげよう。
そう、私は水晶玉を持っていて、あなたが何よりも知っておくべき1つの事実を伝えてあげることができる。製品を世に出したとき、最初の月に入る金額が正確にどれだけなのか。
心の準備はいい?
OK。
最初の月に、あなたが手にするのは、
約、
364ドルだ。これはあなたがすべてを正しく行ったなら、ということだ。値段を安くしすぎると40ドルにしかならない。高くしすぎたら1ドルも入らない。これよりも少しでも多く手に入れることを期待したなら、すごくがっかりすることになるだろう。そしてあきらめてしまい、「あの人」のところで職を得て、私たち新興企業の世界の人間を「レガシーMicroISV」と呼ぶことになるのだ。
364ドルじゃつまらないと思うかもしれないが、そうではない。50%の潜在顧客が財布を取り出すのを妨げていた致命的な問題をすぐに見つけ出し、そうすると、ジャジャーン! 売り上げは月728ドルになる。その後本当に熱心に働き、ある程度知名度を得て、AdWordsの効果的な使い方も分かり、地元のウェディングプランナのニュースレターに会社の話が掲載されると、ジャジャーン! 売り上げは月1456ドルになる。それからスパムフィルタとCommon Lispインタプリタのついたバージョン2.0を出し、顧客同士が意見交換するようになると、ジャジャーン! 月2912ドル売り上げるようになる。それから価格付けをいじり、サポート契約を追加し、バージョン3.0を出し、The Daily Showでジョン・スチュワートに取り上げられると、ジャジャーン! 月5824ドルになる。
今や上手く回るようになってきた。何年か先まで見通しを立ててコツコツとやっていけば、12-18ヶ月ごとに収入を倍にできない理由はない。だから最初がどんなに小さかったとしても、(詳細な計算式は省略 – 編者)、遠からずヘリポートつきの超高層ビルをマンハッタンに建て、サウサンプトンの20エーカーある家の敷地に30分で行けるようになるだろう。
そしてこれが、会社をやることの本当の楽しみなのだと思う。何かをすべて自分で作り、育て、手をかけ、投資し、成長するのを見守り、そして投資が報われるのを見る。これはまったく遠い道のりだが、きっとやってのけてやろうと思う。
(オリジナル: Micro-ISV: From Vision to Reality)